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http://hdl.handle.net/11334/1594
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タイトル: | 控除対象外消費税に関する一考察 -神戸地裁2012年11月27日判決の限界- |
その他のタイトル: | Consideration on hidden VAT -The limit of the Kobe District Court, Judgment, November 27, 2012.- |
著者: | 服部, 一宏 |
著者(別名): | HATTORI, Kazuhiro |
著者(ヨミ): | ハットリ, カズヒロ |
キーワード: | 医療機関 控除対象外消費税 消費税 非課税 損税 |
発行日: | 2019年6月8日 |
抄録: | 医療機関全体で年間2,000億円以上といわれる控除対象外消費税は、消費税の導入以降、その控除対象外消費税が発生する仕組みを見直されることがなかったため、その額は医療機関において年々累積しており、医療経営に深刻な影響を及ぼしている。
本稿は、この医療機関における控除対象外消費税に焦点をあて、以下の要領で考察した。
第1章で、問題の所在と控除対象外消費税の意義、第2章で消費税が導入された背景と基本的な課税制度を確認した。
わが国の消費税は、欧州の付加価値税を倣って導入されており、消費税が付加価値税の性質をもつために必要な制度として、仕入税額控除が規定されている。この仕入税額控除により、事業者における税の累積を排除でき、付加価値税が経済に対し中立的なものとなるのである。また、事業者は販売価格に消費税を転嫁することで、最終的に消費者に負担を求めることを予定している。このとき、各取引段階ですべて課税売上のみであれば付加価値税のチェーンが機能し税の累積は生じないが、非課税取引が介在するとチェーンは断ち切られ税の累積が生ずる。
わが国では診療報酬以外にも非課税取引は存在するのに、なぜ診療報酬だけが問題視されるのか。それは、それぞれの非課税制度における仕入れ消費税額の転嫁方法が違うからである。つまり、非課税取引を行う事業者の多くは、販売価格の値上げにより事業者負担を避けることができるが、医療機関における診療報酬は公定価格であるため、値上げは不可能であり事業者負担が生じるのである。
一方で、厚生労働省は医療機関に消費税の負担が残らないよう適切な診療報酬改定を行っていると主張するが、これが事実であれば、日本医師会が主張する年間2,000億円を超える控除対象外消費税は存在しないはずである。
第3章で、この問題について争われた唯一の裁判例を確認した。
裁判所は、消費税法上、社会保険診療が非課税とされた理由を述べ、診療報酬改定が転嫁に代替するものであるとし、仕入税額相当額の適正な転嫁という点に配慮された診療報酬改定であれば、この仕組みに違法性はないとして、原告の請求を棄却した。
裁判所が厚生労働大臣の果たすべき義務を明確にした部分は評価することができるが、この仕組み自体は適法としたため、この問題を現行法の解釈により解消を試みようとしても限界があることが示された。
第4章では、イギリス・カナダ・オーストラリアの付加価値税制と医療制度を概観し、それぞれの対策を確認した。
付加価値税を採用している諸外国でも、多くは医療を非課税としているが、わが国のような問題が生じているという報告をあまり聞かないのは、国によっては一定の対策が採られているからであり、それぞれの国の対策を考察することが、わが国における問題解消への手掛かりになると考えた。
第5章では、国民に理解を得られ、導入の可能性があること等の視点から、前章で確認した対策を、わが国で採用することができるか否かを検討した。
2019年10月の消費税率引き上げまで時間が限られていることを考慮すれば、カナダのPSBリベートを参考にした解消方法が、現行の医療制度の変更を必要とせず、消費税法の変更のみで対応可能であるため、最善な解消方法と結論付けた。
この問題が解消されなければ、2019年10月の消費税率引上げにより、医療機関における控除対象外消費税の負担はますます重いものとなることが予想される。
特定の業界を保護するためではなく、国民全体の利益を守るためにも、国は、この問題の解決をいつまでも先送りしてはならない。 |
URI: | http://hdl.handle.net/11334/1594 |
出現コレクション: | 平成30年度
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